"山男の情け" 

平成 7年 8月
大汝小屋にて


 恒例の立山移動運用、単独紀行のことです。

ある年のこと、ようやく大汝小屋で無線の為のセッテングも完成し、

ワッチ(430Mhz FM)に入り、QRVしようとした時、微弱な信号をキャッチしました。


 八木アンテナで方向を探るもなかなか取りにくい。 どうやら方角は鹿島槍ケ岳? 

ハンディトランシーバーだなぁ、山からの反射で入感しているなぁと判断するに

至りました。するとかすかに

  「 ワッチ局ありましたら 応答ください 」

私が、

  「 こちらは立山大汝/9 JH9IWHです サブ周波数3.10へQSY

    どうぞ 」

と応答し、サブチャンネルに移りました。


  「 こちらはJN1○□△ですが 剣御前キャンブ場へ連絡お願いできない

    でしょうか 」

  「 了解 ハンディのようですので 簡単に用件だけ送ってください 」

  「 現在位置は剣岳のふもと大町側にいます 3人パ-ティの一人が足の

    怪我で動けません 今夜はここでビバークしますと 先発パーティ

    の剣御前キャンプ場の○◇さんに連絡願えませんでしょうか 」

  「 了解 こちらから連絡しますが そちらはハンディなので電池が

    もったいないから30分後にワッチしてください その間スイッチ

    切って待機! いいですね! 」

  「 了解 御願いします 以上 」
 

 案の定、山の影からでした。アンテナの方角が全然ちがう。私とのやりとりを

聞いてた小屋番さんは、携帯電話を持って小屋から離れた見通しのきく崖まで

行き、剣御前小屋へ連絡してくれました。そこからキャンプ場で連絡を待って

いた○◇さんへ事情説明し、納得されたそうです。


 そして約束の30分後、

  「 JN1○△□さん こちらはさきほどのJH9IWHです

    キャンプ場とは連絡が取れましたので安心ください 」

  「 了解 !!!  有難うございました 明日キャンプ場のパーティ

    と合流して雄山 室堂と下山します そこの小屋で改めて 

    ご挨拶いたしますのでありがとう御座いました 失礼します 」     

  「 了解 では気を付けて移動してください 73 」

キャンプ場と連絡が付かなかったら、騒ぎになっていたことでしょう。


 さて、私の方も出足からこの騒ぎで調子が狂ってしまいましたが、気を取り

なおしてQRVしました。

この夜はコンデションも良く、沢山の局からお声掛け戴き、パイル、パイルで

満足の出来るQRVでした。


次の日の昼ごろ、QRVしていると、私のリグの前に大の大人が、5人直立して    

いるではありませんか。

小屋番さんに聞いたのでしょう、    

  「 あの人です 」    

私はマイク持ちながら、目と目が合うと最敬礼されて、慌てましたよ。    

  「 私達は△▽市役所の山岳会のものです 昨日は有難うございました    

    本当に助かりました 心配で捜索願い出そうかと思っていた    

    ところでした 」    

  「 大事にならなくてよかったですね 」    

そのリーダーらしき人がポケットから名刺を出して、    

  「 またホ-ムへ帰りましたら 改めて御礼いたします 」    

  「 そんなことしないで下さい 山が好きで来ている者同士ではありま    

    せんか 当然でしょう 山男ってそんなもんですよ ハハハハハハ 」    

その間、リーダーらしき人が缶コーヒーをくれて、    

  「 本当に 有難うございました 」

と皆で缶コーヒーで乾杯。

  「 お名前と住所は !! 」

  「 ハハハハア 毎年この小屋で遊ばせてもらってる者でいいでしょう。

    お互いに知らない者同士の出会いで いつか又どこかの山でお会い

    しましょう 」

  「 そうですか・・・ 時間もありませんのでこれで失礼します

    ありがとうございました 」


 いつのまにか、ガスが出てきました。5人は別れ告げてガスの中に消えて行き

ました。 午後からの悪天候とは裏腹に、私の気持ちはすがすがしい気分でした。

社会的立場もあり、大事にならなくて、本当に良かったと思いました。

 山にいると色々なことが起こります。忘れられないエピソードの一つです。



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