" 最高の体験 " 


 1994年7月21日、 第17回全国通信伝搬実験に参加のため、

一年ぶりに立山大汝小屋にやって来ました。

その日は悪天候の中、登頂して来たので体は冷え切り、汗も結構

かいていましたが、時間がないので小屋に着くとそのままセッティング

にかかりました。


 今夜のQRVに備えて、雨の中の作業が完了したのが午後19時。

やっと終わり一服していると、小屋番のアンチャンが、

  「 内山さん 夕食前に風呂でも入りませんか 」

  「 ンーン?? 」

  「 今年は雨が多いので 水は大丈夫ですよ 」

山では水はたいへん貴重なものなので、

  「 ありがとう 」

と、戴くことにしました。

 水は屋根のトイから集めてドラム缶に貯めたものですが、飲料する

には一度煮沸してから使います。

が、風呂となると、そのままトイを伸ばして風呂桶(バス)へ、その水を

ヤカンや鍋、洗面器でストーブであたためてから風呂桶にためておくの

です。

気づかなかったけど、アンチャンが忙しくバタバタしていたのはその為

だったのか、ごくろうさん!! 


 小屋の外に小さなプレハブがあり、そこにバス桶風呂があるので、小屋

から裸になり、プレハブまで走るのです。外は夏とは言え、夜は気温1℃か

2℃、

  「 ソレッ おぉーさむー 」 

バスに足をいれると、

  「 ンーン? 」

足の先と言わず、体の全体からサイダーかラムネのように細かい泡が、

シュワシュワ、シュワシュワ、ジュウワ、ジュウワ。

  「 ウーン こりゃなんじゃあ? 」

つぎの瞬間、

  「 イターイタタタ 」

チク、チク痛いのです。別に体に傷がある訳でもないのに体が冷えて

いたからでしょうか? それに入る前に手で湯をかき回した時は、そんな

に熱くなかったと思いましたがすごく熱く感じました。

これも気圧のせいでしょうかね。とにかく動かずじっとして体が温まる

まで、我慢の子です。

 考えてみれば3000mH以上で風呂に入った人もそんなに沢山は

いないだろうと一人ほくそえんでいました。


 今日の疲れも癒され、

  「 最高 最高 甘露 甘露 アンチャンお先 ありがとう 」

  「 いやいやどういたしまして 」

 次はアンチャンの番です。すでに裸になり、自分の洗濯ものを抱えて

粉石けんを持ち、バスへ飛び込んでいきました。私は着替えてから風呂に

忘れものに気付き、取りに行くとアンチャンはバスに入り、洗濯ものの上

から粉石けんをふりかけ、バスの中でもんでいます。だから当然、バスは

石鹸の泡だらけ。まるで洋画劇場でも見ているようでした。


 私は体もスッキリ、気分も上々。後はアンチャンが風呂から上がって

きたら、夕食してQRVの予定!!  

タバコに火をつけ、スト-ブで温まりながら、

  「 まてよ アンチャンはあの泡だらけの体どうするのかな? 

    掛け湯もないし まさかこの寒いのに水をかぶって泡を?? 」

アンチャンは、

  「 おぉーさむー おぉーさむー 」

  「 まさか まさか?? 」

まだまだ石鹸の匂いをプンプンさせながら! さすがアンチャン! ますます

ファンになるのはなぜでしょう !! 

こんなのんびりした、だけど最高のひとときでした。


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