--- 懐かしい「湯治湯」 ---



  私のまだ子供の頃の湯治場(温泉湯)での夕飯どき、あの頃は各部屋の前の  

廊下にしちりんコンロが並んで置いてあり、真っ赤に妬けた炭火を入れ、渡し網  

の上に「さんま」の頭を互い違いに三匹か四匹乗せて焼いていた。  

魚は昼間、リヤカ−で町からおばあさんが売りに来ていたようだ。  

その煙たるや、廊下中も〜うも〜と   

 「 お〜い窓あけや〜 」  

焼けるにつけ、ときどきしたたり落ちる油、ぼ〜、ぼ〜と、うちわで仰ぐ。  

その匂い、ぷんぷん、お腹、ぐ〜と鳴る。   

 「 お〜い皿、皿 」  

 「 はい、はい 」  

摩り下ろした大根きざみねぎ、焼きあがった秋刀魚を乗せる。   

すかさず、醤油「じゅじゅう〜」  

また、一段といい匂い、おひつから、炊き立ての「コシヒカリ」  

 「 え〜面倒だ、どんぶりめしだぁ〜 」  

米粒が立っている、光っている。一口ほおばる。  

 「 あまいね〜 」  

 「 そう〜だろう、俺が作っている米だからなぁ〜 あっはははは 」   

油の乗った秋刀魚、大根おろしに醤油が沁みこんで行く。  

 「 あちちちちちっ 」  

 「 どうだぁ〜? うまいだろう 」  

 「 うん、うまい〜 」   

 番茶、漬物、ぬかずけの黒ずんだショッパイ大根、これだけあれば大  

ご馳走だった。  

おじさん達はコップに酒、ねじり鉢巻、たちまち隣の部屋の人達も加わり、湯治湯  

の廊下は宴会場となって夜は更けていった。  

 今は、廊下で火は禁止、飛んでもないこと。   

懐かしく思い出していました。

      

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