--- 私の青春時代 その9 ---

( 新入り・御曹司 )



 この芝三田、慶応前の店に来て、はや一年、今だ新入りが来ない。そうしないとトコロ  

テンではないが押し出されて二階の「洋菓子部」へ入れてもらえない。そこへ先輩が  

  「 来月から学校出たての男の子が来るそうよ 」  

内心しめたぁ〜と思った ! いよいよ、二階へ上がれそうだなぁ〜と。これが甘かった。  

店のオーナの知り合いか、コネか、いきなり二階の「洋菓子部」へ入るそうな !  

そんなぁ〜 チョボ市なぁ〜 その子は、伊東の和菓子屋の御曹司で、これが、  

後ほど仲良しになり『いいやつ』なんだぁ。  

少ないけど給料も出ていましたが、そいつ、毎月仕送りしてもらっている。工場の先輩、  

仲間、チーフと時々、ネオン街へ「散歩」と称して出歩くそうな。若いのに『ごま擦り』  

も心得、『さすが商売人の御曹司Tさん』と評判も高く、卒なく人当たり、笑顔、店の  

女の娘達のたちまち『アイドル』である。  

それに比べ、田舎者の私には、『名もなく貧しく金もなく』なんの取得もない。これ  

からどうなるの〜  

ある休みの日、Tが  

  「 内山さん、お風呂へ行きません ? 」  

  「 あぁいいよ〜 」  

  「 何処のお風呂やへ行きましょうかね〜 」  

  「 いや〜 近所のいつものでいいんじゃ〜 」  

  「 いや〜 たまには〜 新橋のお風呂屋もいいと聞いていますが〜 」  

  「 え〜 ぇっ? ひょっとして〜 ? おぃおぃ冗談もほどほどにしなぁ〜  

    そんな金〜あるわけがないじゃん〜 ? 」  

  「 いや〜 私にお任せ〜下さい 」  

  「 馬鹿ヤロ〜? まだ〜修行の身で〜 なに考えているんだ〜 お前は〜 ! 」  

私の言っている事が古いのでしょうか〜 (本音と建て前のもどかしさ)  

『カ〜ツ』を入れた積りだが、  

  「 済みませんでした。 私一人で行ってきます〜 」  

だって。 全然分かってとらんヤツだ〜  

とんでもない御曹司 Tです。前途多難である。 誘惑に弱い私ですから〜 残念!  

                                             つづく             

                   

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